ヘッジファンドとプライベート・バンキング
ヘッジファンドは「相場が下げても」儲かる
「ヘッジファンド」と言えば今や伝説と化しているのが、ジョージ・ソロスの「クォンタム・ファンド」です。もし、1970年に100万円を預けていれば1980年には1億円になっていたとか、1969年に10万円預けていれば1992年には1億円以上になっていたなどと言われていますが、現実には「10万円」や「100万円」でヘッジファンドに投資することはできません。
それというのも、ヘッジファンドでは、デリバティブ、レバレッジ、裁定取引など、一般の投資信託では規制されている手法を駆使して利益を上げるため(従って、下げ相場でも利益が生じます)、「私募」の形式をとっているからです。参加できる投資家の数を限定しているので、規制は受けませんが、投資家一人当たりの投資額は大きくならざるを得ません。
最近はヘッジファンドの数も増え、世界中に4,000から5,000はあると言われています。日本でも「ヘッジファンド」を名乗るファンドが出てきました。
ヘッジファンドはどう選ぶ?
これに伴い、一人当たり最低必要な投資額も、ひと頃言われた「10億、1億は当たり前」の世界から最近は「1000万円」程度となって来ています。
それにしても、数あるヘッジファンドから適切なものを選択するのは大変な作業です。「ヘッジファンドの格付け」というのも一応あるようですが、もともと規制がなく公開情報も限られているため「格付け」といっても限界があります。けれども、言うまでもなく「ハイリスク・ハイリターン」のヘッジファンドですから、選択はできる限り慎重に行う必要があるのです。
プライベート・バンキングとヘッジファンド
そこで、適切な選択と購入のためには、プライベート・バンキングのサービスを利用するなかで、ポートフォリオの一部にヘッジファンドを組み込むという形が考えられます。
「プライベート・バンキング」とは、「プライベート・バンカー」と呼ばれる専門家とともに一人一人のニーズに合った資産のポートフォリオを構成して行くことです。プライベート・バンカーは特定のヘッジファンドの代理人やセールスマンではなく、本当の意味での資産保全・資産運用の専門家です。
プライベート・バンクは、顧客の資産を保全し適切に運用してこそ利益がありますから、完全に顧客の立場に立ったサービスを提供しています。それ故に、顧客との徹底した話し合い、調査・分析を通じて、複雑な世界の経済情勢の中で、最も顧客のニーズに合ったファンドを選択することが可能となるわけです。
追記
最近、新潮社の雑誌『フォーサイト』(2007年7月号)に、ヘッジファンドに関する誤解を招きかねない内容の記事か載りました(「ヘッジファンドがかぶる投資信託という名の仮面」)。この雑誌は書店売りはしていませんが、優れた内容の雑誌として本サイトでも推奨している関係から、無視するべきでないと思いますので、ここでコメントしておきます。
記事の内容を要約すると、「ハイリスクのヘッジファンドが、『市場の荒らし屋』という本性を隠しながら、年金基金や投資信託などの形で個人(投資家)に浸透しつつあるので注意するべきだ」というものです。
これを読むと、米国の大学基金や年金がヘッジファンドなどのオルタナティブ投資を資産に組入れているのは、いかにも「ハイリスク指向」があるからだとの印象を受けますが、事実は全く逆です。大学基金や年金がオルタナティブ資産に投資するのは、そのリスクの性質が株式や債券などの伝統的資産とは異なるため、これを組入れることでポートフォリオ全体としての「リスク低減」を意図しているからに外ならないのです。
もちろん、少数のヘッジファンドに集中投資したりすることはなく、少なくとも数十の投資先に分散しているはずです。これは、個人がなけなしの資金を一つか二つのヘッジファンドに注ぎ込むのとは全然意味が異なります。
個人投資家がヘッジファンドに直接投資するのはかなりのリスクを伴います。ヘッジファンドやプライベート・エクイティ投資を組入れた「安全なポートフォリオ」を組むには、個人の資産では一般に規模が小さすぎるため、必然的に少数ファンドへの集中投資とならざるを得ないからです。しかしこれは、ヘッジファンドが悪いわけではなく、知識があってかあらぬか、「投資は自己責任」と言いつつ顧客にそのようなリスクをとらせてまでファンドを売り込もうとする金融機関やコンサルタントの罪であると言うべきです。
また、ヘッジファンドが『市場の荒らし屋』であるというのも偏見でしかありません。投機家のいない市場の方がむしろパニックに陥りやすく、正常に機能しない可能性があります。
しかし、最大の問題点は、この記事の筆者(そして日本のジャーナリズム一般)が、投資や資産運用について勉強不足であり、日本人一般と共通の誤った考え方を前提としていることです。
その誤った前提とは「最大のリスクとは『元本割れ』である」というものです。
これに対して、欧米の大学基金、年金基金や財団は、「最大のリスクとは『実質価値の目減り』である」という考えを基本としています。すなわち、資産をほったらかしにすれば、額面価値が同じでもインフレにより購買力が低下してしまいます。この目減りを避けるために投資を行ない資産を運用するのは、「公金を預かる者」の「義務」であるというのが彼らの基本的なスタンスです。
そして、そこから導き出されるのが「リスクのない資産など存在しない」という重要な教訓です。預金も、国債も、株式も、それぞれが持つ「リスクの性質」が異なるというだけで、「リスクがある」という点では変わりがないのです。その点では、ヘッジファンドも他の投資対象と本質的な違いがあるわけではありません。
日本では長年にわたりデフレが続きましたので、「元本割れ」さえなければ資産の価値が目減りするということはありませんでした。しかし、これは経済の歴史からみて、例外的な、特殊な状態に過ぎません。経済の常態からすれば、「元本を保証する代わりに、極めて少ないリターンしか得られない」運用こそ、インフレに弱く、リスキーであると言うべきなのです。
これが、欧米の大学基金、年金や財団が資金を運用する際の基本的な認識です。
では、「すべての資産にリスクがある」ならばどのように「資産を保全」するべきなのでしょうか。これに対する彼らの答えは、「リスクの性質が異なる資産を組み合わせることで、一定の運用効果を上げつつポートフォリオ全体としてのリスクを低減できる」というものです。ヘッジファンドなどオルタナティブ投資の組入れも、このような考え方に基づいて行われています。
これは、日本で一般的な、「元本保証は無リスク」であるとの素朴な信仰や、反対に「勝負に出る」とばかりにハイリスクの投資(投機)に資金を集中するのとは、本質的に異なるスタンスであることが理解されるでしょう。率直に言って、日本的な考え方は余りに極端であり、稚拙です。欧米の大学基金、年金や財団など「公金を預かる立場」の機関や、真に顧客資産の保全を考えるスイスのプライベート・バンクなどは、このような態度には決して与しないでしょう。
ヘッジファンドは、やみくもに集中投資すれば確かにハイリスクです。しかし、それは正しい利用法とは言えません。重要なのは、これを利用することで、いかにして資産ポートフォリオ全体のリスクを低減させ得るかということです。繰り返しますが、いかなる資産にもリスクがあります。ですから問題は「リスクがあるかないか」ではなく、「リスクとどう付き合うか」なのです。これに言及することなくヘッジファンドを論じたとしても誤解を助長するだけです。
すべての投資と同様、ヘッジファンド投資で損失が出るという事態がいつかきっとあると思います。しかし「正しい付き合い」を心得ていれば、影響は抑えられるでしょう。そうでなければ巨額の損失を被る可能性があるのは確かだと思います。
けれども、そのとき真に非難されるべきなのは、「ヘッジファンド」や「ヘッジファンドに投資したこと」自体ではなく、「ヘッジファンドとの正しい付き合い方」を知らず、あるいは知っていても投資家に伝えないまま販売している日本の金融機関なのではないでしょうか。
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