起業・投資・資産管理術の研究

出版物一覧・注文

 

 

Part 2  インデックス型投資信託の「手数料が安い」は本当か

 

投資信託の手数料とは「価格」である

とは言うものの、「貯蓄から投資へ」という流れはまだ始まったばかりです。投資信託への関心は高まりつつあるようですが、実際に「投資信託でも買ってみようか」と思い始めた人々の「手数料への関心」はまださほど高くないと思われます。

大型テレビを購入するときは家電量販店をいくつか回ったり、野菜を買うためにスーパーをはしごして価格をチェックしている人でも、類似の投資信託どうしで手数料を比較したり、「この種のファンドなら信託報酬は何パーセント程度が妥当だ」と自分なりの目安をもって商品を選んだりしている人は、ごくまれなのではないでしょうか。

その理由のひとつは、投資信託の仕組みが必ずしもよく分かっていないからかも知れません。だとすれば、「手数料が投資信託の価格である」という認識も浸透していないと思われます。

しかし、どんな商品にも「価格」というものがあり、投資信託が「金融商品」であるなら、その「価格」とは、手数料以外にあり得ないのです。

ところが、顧客である投資家の多くは、1万口の投信を買うために1万円(当初価額の場合)を証券会社や銀行に支払うので、その1万円が「投資信託の価格」だと勘違いしてしまうのでしょう。あるいは、「元本保証でない」と知りながらも頭のどこかに「預金のようなものだ」という思い込みがあって、そのためコストよりも「利回り」、つまり運用成績にばかり関心が向くのかも知れません。

 

業界全体の知識が必要

このように、投資信託の「本当の値段」は、まだまだ多くの人々にとって「見えていない」のだと考えられます。「本当の値段」がよく分からないので、「投信スーパーセンター」に行っても、スーパーの店頭でトマトを買うように投資信託を購入するわけにはいきません。手数料という「本当の価格は」、基準価額や運用成績や分配金などの数字に隠れて目立たなくなっていますし、仮に見つけたとしても「1%」「0.5%」といったわずかな数字が実際に何を意味するのかを想像することはかなり困難です(その「実際の意味」を示した計算表を後に掲載していますのでご覧下さい)

そして、投資信託の場合は、商品を比較するにしても、業界全体の様子を知らなければ、ある投信の「価格(手数料)」が実際に高いかどうかもよく分かりません。店頭で比較しただけでは情報が足りないのです。

比較のための正確な情報がないので、標準よりもはるかに高い商品をつかまされたり、販売手数料が無料であるノーロードの商品だからといって運用手数料が高めのファンドを買ってしまったりするのは珍しくありません。いな、各人の経験に照らしても、そのようなケースは非常に多いのではないでしょうか。

このリポートの目的はいくつかありますが、その一つは、そのような事態を避けるための基礎知識をご提供することです。

そのため、このリポートでは、投資信託、とりわけインデックスファンドの運用手数料(信託報酬)を比較するために、投信業界全体をカバーする出来るだけ正確な情報をご提供しようと意図しています。

 

投資信託の手数料から投信会社の「良心」をみる

では、なぜ、さまざまある投資信託の中でも「インデックスファンド」なのでしょうか。

それは、先にも述べたインデックスファンドの商品特性によるものです。

基本的に運用の上手い下手が問題とならないインデックス運用のパッシブ・ファンドの場合は、運用手数料(信託報酬)の比較は、ファンドを選択・購入するに際しての決定的に重要なファクターとなります。

それだけではありません。

実は、インデックスファンドには、さらに興味をそそられる要素があるのです。

インデックスに連動したパッシブ運用をしている投資信託の手数料は、単なる数字であることを超えて、日本の投信・証券業界の「良心のあり方」とでも言うべきものを示すのではないか、と予想されるのです。

先にも述べたように、インデックスファンドの投信業界における立場には微妙なものがあります。インデックスファンドという金融商品は、常に「顧客に求められる商品」である一方で、投信業界にとって「嫌われ者、厄介者」という側面があることは否定できないからです。従って、その扱い方には、投信会社、あるいは業界の見識があらわれる可能性が十分にあるでしょう。

当方では、むしろその「日本の投信業界の良心」の方に、よりいっそう興味をそそられます。

そこで、現在(20077月頃)日本で運用・販売されているインデックス型の投資信託の運用手数料(信託報酬)を可能な限り調べてみることにしました。

すると、意外なことが分かったのです。

 

インデックスファンド実態調査

まず、現在、いわゆる「インデックスファンド」に分類される投資信託にはどのようなものがあり、どのくらい設定・運用されているのでしょうか。そこから調べてみることにします。

 

1 インデックスファンドを設定・運用している投信会社一覧(順不同)

投信運用会社名

設定本数

AIG投信投資顧問

1

興銀第一ライフ・アセットマネジメント(DIAM)

2

T&Dアセットマネジメント

2

Vanguard Investments Japan Ltd.

2

しんきんアセットマネジメント投信

2

ステート・ストリート投信投資顧問

5

セゾン投信

1

ソシエテジェネラル アセットマネジメント

3

ドイチェ・アセットマネジメント

2

トヨタアセットマネジメント

3

ニッセイアセットマネジメント

1

プルデンシャル・インベストメント・マネジメント・ジャパン

4

みずほ投信投資顧問

7

モルガン・スタンレー・アセットマネジメント投信

2

国際投信投資顧問

2

三井住友アセットマネジメント

3

三菱UFJ投信

26

住信アセットマネジメント

5

新光投信

5

大和住銀投信投資顧問

1

大和投資信託

23

中央三井アセットマネジメント

4

朝日ライフアセットマネジメント

1

東京海上アセットマネジメント

1

日興アセットマネジメント

9

日本投信委託

1

農林中金全共連アセットマネジメント

4

明治ドレスナー・アセットマネジメント

2

野村アセットマネジメント

13

 

上の表は、20077月現在で、どの投信会社でどれだけの「インデックスファンド」が設定・運用されているかを示しています。29社で計142本の「インデックスファンド」が設定・運用されていますが、これには国内株式、国内債券、外国株式、外国債券のインデックスに連動した運用を行う投資信託と、これらのインデックスを組み合わせたバランス型ファンド、ファンド・オブ・ファンズなどが含まれています。また、上場不動産投資信託(REIT, J-REITなど)の指数に連動したファンドや商品(コモディティー)指数連動ファンドが含まれています。

ただし、この調査では、インデックスに連動する投資信託であっても上場投資信託(ETF)は除外してあります。また、業種別インデックスや地域別インデックスに連動するものなど、国内株式型でもやや特殊と思われるインデックスファンドも含まれていません。さらに、これらは主として投信運用会社のホームページで調べたものなので、実際には設定・運用していても新規募集していないものなどが掲載されていないことがあり、データから漏れている可能性もあります。

 

「インデックス参照ファンド」等に注意

参考のため、モーニングスターのホームページにあるファンド検索機能を用いて「インデックスファンド」を検索すると、出てくるファンドの本数は117本です。これにはバランス型ファンドやREITファンド、債券ファンドなどが含まれていないためか、当方の調査の結果に比べるとかなり数が少なくなっています。国内、海外の株式インデックスファンドに限れば、およそこのくらいあるということでしょう。

ちなみに、モーニングスターのファンド検索では日立投資顧問のファンドが出てきますが、これなどはグループ企業の年金資産の管理・運用を専ら行っている会社です。一般の人々に向けて販売されているファンドの運用は行っていないと考えられますので今回は調査の対象外としました。

また、注意するべきことですが、最近になって、日経平均参照ファンド、TOPIX参照ファンドなどのいわゆる「インデックス参照ファンド」、また「ファンダメンタルインデックスファンド」など、一見するとインデックスファンドの一種と思われそうな紛らわしい名称の商品が出ているようです。しかし、これらはインデックスファンドとは本質的に異なる性質の金融商品です(例えば「インデックス参照ファンド」は、仕組み債等を用いた複雑なしくみの債券ファンドであるようです)。もちろん、ここでは取り上げていませんし、ご自分でインデックスファンドについて調べられる場合も除外された方がいいと思われます。

 

「投信業界の嫌われ者」の証拠(!?)

さて、この「29社で142本」という数字をどう見るかですが、2006年の時点で約2500本の投資信託が設定されていますから、インデックスファンドの本数は全体の6パーセントにも達しません。

また、投資信託運用会社、不動産投信運用会社の業界団体である投資信託協会に会員登録している投資信託運用会社(不動産投信運用会社を除く)20078月の時点で78社ありますから、全体の3分の2近い投信会社がインデックスファンドを1本も出していないことになります。

さらに、上記の条件に合致するインデックスファンドを10本以上設定して運用している投信会社は、当方の調査した限りでは、「三菱UFJ投信」、「大和投資信託」、「野村アセットマネジメント」のわずか3社に過ぎません。5本以上と条件を緩めても5社増えるだけです。

このように、常に一定の需要はあるものの結局のところ手数料率を引き下げることでしか差別化をはかれないインデックスファンドを、積極的に設定・運用している投信会社はむしろ少数派です。

インデックスファンドが、どちらかと言えば「業界の嫌われ者、厄介者」であり、運用会社や販売会社(証券会社、銀行など)にとって必ずしも「おいしい商品」とはみなされていないことが、この数字からも窺えるのではないでしょうか。

 

インデックスファンドの「手数料が安い」は本当か??

さて、これらのファンドの運用手数料(信託報酬)について調べていくと、意外なことに気付かされます。

一般に、インデックスファンドは「コストが安い」と思われています。先にも見た通り、インデックス運用のコスト(手数料=信託報酬)が低いからこそ、多くのアクティブ運用のファンドに勝てるのです。

しかも運用成績による差別化をはかれないインデックスファンドは、必然的に手数料を引き下げることで差別化し、競争せざるを得ません。

だとすれば、競争を通じて必然的に手数料の率が下がり、やがて「ぎりぎり利益の出る限界となるべき一定の比率」へと収斂していくと予想されるでしょう。

ところが、この期待は見事に裏切られるのです。

 

手数料に根拠はあるのか?!

すなわち、調査の結果、すべてのインデックスファンドが「手数料が安い」というわけでは決してない、ということが判明したのです。

実際に調べてみると、同様のインデックスに連動しながら、あるファンドは低コストである一方、別のファンドはかなりの——アクティブ・ファンドと同じかそれ以上に——高コストであるという事実が明らかとなりました。驚くべきことに、その差は実に数倍、場合によっては10倍以上(ただし年金用のファンドと比較した場合です)ともなります。そんなことが信じられるでしょうか。

いったい全体、「競争原理」はどこに飛んでいったのでしょう。

確かに、手数料の比率にある種の傾向は見られます。それを「収斂」と言い換えても良いかも知れません。

けれども、その「例外」もまた多く、しかもその程度が納得し難いほどに大きいので、結局のところ「ファンドの手数料にはさしたる根拠などないのではないか」と疑われるほどなのです。

 

インデックスファンドの手数料が示す傾向

とは言え、非常に大まかな傾向のようなものはあります。そこで、その運用手数料(信託報酬)の示す傾向について簡単に説明しましょう。

それは、次のようなものです。すなわち、

1.      株式投資信託と債券投資信託では、株式の方が高くなる。

2.      国内ものと海外ものでは、海外ものの方が高くなる。

3.      年金用のファンドでは低く設定されていることが多い(個人年金を除く)

4.      一般に、外資系の投信運用会社の設定・運用するファンドで高く設定されていることがある。

以上となります。

このような傾向が見受けられる理由について、大まかな推測をすることは難しくないでしょう。

まず、株式投資信託と債券投資信託を比較したときに株式投資信託の手数料が高くなることは、比較的容易に理解されると思います。やはり株式の方が売買コストがかかると考えられるからです。

国内ものと海外もの(例えば国内株式投資信託と海外株式投資信託)を比較した場合についても、同様の理由で海外ものが高くなることは、容易に想像されるでしょう[]

[]ところが、この内外差に関しては、実際にどれほど合理性があるかは疑問です。それというのも、海外で販売されているインデックスファンドの例を調べてみると、例えばイギリスで販売されている米国株式のファンド手数料率(「エクスペンス・レシオ expense ratio」という)をイギリス国内株式ファンドのそれと比較しても決して高くはなってはいないからです。

 

「日本人はなめられている」のか?!

また、個人年金を除く年金用のファンドの多くで運用手数料(信託報酬)が低く設定されているのは、個人相手の商売でないため大口取引となるからでしょう。ですから、サラリーマンがインデックスファンドを買う場合は、個人として銀行や証券会社を通して取引するよりも、会社の年金プランなどを利用して、「DC専用」(DCとはDefined Contributionの略。確定拠出年金のこと)などと銘打たれたファンドを買う方が優遇されることが多いと考えられます。

これに対して、一部の外資系投信運用会社(あくまで「一部」です。念のため)の設定・運用するファンドで、かなり高めの手数料が設定されている理由については、実際のところ、よく分かりません。

他のアクティブ運用をしている自社のファンドとのバランスをとるためか、あるいは単に「投資知識のない日本人がなめられている」のだという気もします。

何故なら、一般に海外で販売されているインデックスファンドの手数料率(「エクスペンス・レシオ expense ratio)が極めて低いからです。同様のものを日本に持って来ただけで手数料が跳ね上がることに合理性は感じられません。

 

最も「なめている」のは日本の会社?!

とは言え、以上は大まかな目安に過ぎません。例外の方がむしろ多いと言っていいでしょう。

例えば、「DCインデックスファンド」などと銘打たれた確定拠出年金用の投資信託にも、ときどき年金用でない一般のインデックスファンドと同様の手数料をとるものがあります。

不可解なことです。他の年金用ファンドが、おそらく「超大口取引」という理由でかなり安めの手数料を設定しているのに、何故それらだけが「個人取引と同等」の手数料を設定しているのか。その理由を推測するのは困難です。あるいは理由などないのかも知れません。

また、外資系の投信会社の設定・運用するファンドの手数料が一様に高いわけでは決してありません。むしろ、海外での手数料率(「エクスペンス・レシオ expense ratio)をそのまま持ち込んだと思われる極めて低い手数料率が提示されていることもあります(ただし、日本の証券会社等を通して買うと別のコストがかかり、結局さほど安くはならないようです)

ですから、「外資系」を特別扱いするのは、あるいは間違っているのかも知れません。実際、当方の調査した限りで最も高い手数料率が設定されているインデックスファンドは、実は外資系投信会社のものではなく、日本の大手証券会社やメガバンクの系列に属する投信運用会社のものでした。

結局のところ、最も「日本人をなめている」のは外国人なのではなく、実は日本の会社だということでしょうか。

 

Part 3  インデックス型投資信託の手数料を比較・分析する

 

Part 1  インデックスファンドとは「投信業界の嫌われ者」である」に戻る

 

[関連リンク]

国際的な投資アドバイザーを味方に付けよ

誰も知らない 投資信託の秘密

投資超初心者がプロに勝つための「年30分」ずぼら投資法

長期投資の罠 凡人の「ひらめき」が巨富を生む

 

**日本語が通じるスイスのプライベートバンクの情報を無料でご提供致しております。詳しくはお問い合わせ下さい(メール: mz.group@e-law-international.com )

**本サイトの金融関係記事は情報の提供のみを目的としており、本サイトでは、預金、投資信託等も含め、いかなる金融商品の販売、仲介、推奨、勧誘も致しません。

 

[HOME]